平成20年度 税制改正に関する提言 基本事項
財団法人全国法人会総連合
は じ め に
 日本経済は、現在まで、回復基調にある。各種経済指標から判断すると、今回の回復局面は長さでは戦後最長と言われるが、全般的に回復の実態に乏しい。その理由として、多くの中小企業が景気回復の恩恵を受けずに依然、厳しい状況下に置かれていること、さらには景気回復に地域間の格差があることなどが挙げられる。
  一方、わが国の財政赤字は先進国中最悪の状態にあり、歳入・歳出の抜本的な改革が避けられない最重要課題となっている。これに加えて、先進国に類例のない少子高齢社会の到来で、老齢人口が増える反面、勤労者世帯人口が減っていくため、社会保障費等の各種公的サービスを支える勤労者世帯の負担は、現行制度を維持する限り、増大せざるを得ない状況にある。
  こうした閉塞状況を打破するためには、国および地方自治体が「聖域なき財政改革」を断行するとともに社会保障制度改革を行い、国民の将来に対する不安を払拭させ、信頼回復に努めることが緊急の課題となっている。 
  当然、税制面においても、経済社会の構造変化に対応したあるべき姿を再構築しなくてはいけない。21世紀の日本経済は、国民の貯蓄率の低下等の原因から経済成長の低下が危ぐされている。そのための解消策として、日本経済に元気を取り戻すための、経済活性化に資する税制、中小企業者等努力したものが報われる税制の確立が不可欠である。さらに、国民の理解を得るとの観点から、分かりやすく、透明性の高い税制の実現も必要だろう。以上、我が国経済社会の活力を維持、向上させるとの観点から、会員の総意として平成20年度税制改正に関する提言を取りまとめた。
総 論
第一 経済社会の今後のあるべき姿

 すでに述べた通り、日本経済は回復基調にあるが、財政、社会保障問題等、国民の経済社会の先行きに対する不透明感、閉塞感はいまだに払拭されていない。
  このため、わが国のあり方についての将来像、実行可能な改革行程などを早急に示し、国民に安心感を与えることが重要である。歳出、歳入の一体改革については、歳出削減、歳入増の組み合わせが課題となるが、まず当面は歳出面の改革に重点を置くべきであえる。
「骨太の方針2006」で決定した改革では、2011年度に基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を黒字化するという目標を掲げた。しかし、これは単年度収支の改善という改革の出発点にすぎず、過去に累積された巨大な財政赤字の削減策には触れていない。その後の中期的な財政改革のあり方や、歳出削減の具体策についても言及すべきである。

第ニ 行財政改革の推進と歳出削減
 昨年5月に成立した行財政改革推進法等関連法には、政府系金融機関改革、2010年度までに約33万人の一般公務員の5%削減、31特別会計の統廃合、公会計制度の整備等が盛り込まれた。さらに、特殊法人等の整理合理化、独立行政法人改革なども記述されている。
 しかし、それらの内容は民間の血のにじむようなリストラ策に比べると、生ぬるい。行政改革を大胆に進めていくためには、本当に国民が必要とする行政サービスを最少の費用で提供していくとの視点から、「官から民へ」の役割分担の再点検などが必要である。さらに、これらの改革を大胆に実行するよう努力すべきである。
 一方で、政府の歳出・歳入一体改革で触れられていない国・地方における議員定数の削減、歳費の抑制、とりわけ市町村合併にかかわる地方議員・公務員の大幅削減、給与の見直しを強く求める。地方自治体では広域行政や市町村合併の強力な推進、道州制の検討などで行政の簡素化・効率化が不可欠である。

第三 社会保障制度・国民負担のあり方
 わが国は人生80年という世界一の長寿国となり、高齢化社会に突入しているが、同時に少子化が急速に進んでおり、現行の社会保障制度の維持は相当難しくなっている。今後、政府の見通しでは、社会保障費の伸びが経済成長率を大きく上回ることが予想されている。
 こうした情勢のなかで、国民の納得できる制度の見直しが、ぜひとも必要である。社会保障制度改革は問題が山積しているが、当面は国民不安の解消と信頼性回復のため、保険料負担と税負担のあり方や世代間、世代内の受益と負担の公平等、中期のビジョンを明確にし、持続可能で安心できる制度の構築が急務である。
 また、少子・高齢化の進展に伴い、ある程度の国民負担の増大が予想される状況のもとでは、社会保障費という公的サービスを税と社会保険料でどのように負担していくかが重要なポイントとなる。年金制度については、給付と負担のあり方を再検討するべきである。とくに保険料の企業負担は限界にきており、これ以上の負担増は耐えられないことを指摘したい。
 税本来のあり方としては、あらゆる世代が広く、薄く、公平に負担を分かち合う観点から、消費税の充実などにより、社会全体で福祉財源を公平に負担すべきである。
  ただし、制度の効率化という観点から、将来も「小さな政府」を目指すべきことはいうまでもない。その場合、財政赤字を含めた将来の潜在的国民負担率を50%程度にとどめるべきである。

第四 国と地方のあり方

行財政改革と同時に国と地方の役割を見直し、地方分権を進めていくことも重要である。 地方分権の推進のために国と地方のいわゆる三位一体改革の基本方針が取りまとめられたが、残された課題も多く、さらなる改革が不可欠である。
 国民が、国・地方に求めているのは、歳出削減を中心とする行政の効率化であり、国と地方の役割分担の明確化である。行財政基盤強化の観点から、道州制の導入の検討や行政サービス水準の向上が不可欠である。

  地方の歳入、歳出のかい離を調整するために設けられた地方交付税交付金については、公的サービスによる受益と負担の関係が不明確で、財政の肥大化をまねく恐れがある。行財政改革の趣旨にもそぐわないため、他の制度と合わせ、総合的な見地から再検討すべきである。

第五 税制改革のあり方

 税制改革にあたっては、公平・中立・簡素という基本原則を踏まえるべきである。とくに国民に分かりやすい税制の構築という観点から税制の簡素化がぜひとも必要である。
 政府は、日本経済のグローバル化や人口減少社会、中小企業の活性化等に対応した税制改革を明示すべきである。とくに地域経済の担い手である中小企業の繁栄なくして日本経済の再生はありえないとの観点から、税制改革にあたっては中小企業の活性化に資する税制、努力した者が報われる税制の確立を急ぐべきである。具体的には、法人税率(軽減税率を含む)の引き下げおよび事業承継税制の確立を最重要課題として提示する。

第六 租税教育の充実

 税は国、地方が提供する公共サービスの財源である。従って、税がなければ国や地方の各種サービスは機能しない。国民の納税義務は憲法でも定められている。21世紀の納税者は「税をキチンと支払い、その使い方を監視する人」にならなければならない。今後の行財政改革の推進にあたっては、国や地方が国民に対して実施状況を公表するなど納税者とともに進めていくことが求められる。そのための監査機能の充実も大切になる。
 そこで、学校教育はもとより社会全体で租税教育に取り組み、税の役割を正しく理解して、真の納税者(タックス・ベイヤー)意識を定着させる必要がある。

各 論
第一 法人税制について
1 法人税基本税率の引き下げ
     わが国の法人税の実効税率はアメリカ並みの39.54%となっている。しかし、イ
  ギリス、フランス等は30%台前半であり、近年欧州諸国等では税率の引き下げが行わ
  れている。日本企業も多くが進出しているアジア諸国は低税率である、日本企業の国際
  競争力確保の観点からも法人税の基本税率について地方税を含め、より一層の引き下げ
  を求める。これと並行して、租税特別措置の整理など課税ベースの拡大も必要である。
2 中小企業軽減税率の引き下げ
   中小企業に適用される軽減税率については、その適用所得が昭和56年以来800万
   円に据え置かれている。また、基本税率との格差も縮小してきている。そこで、軽減
   税率を22%から20%程度へ引き下げ、適用課税所得金額を1,500万円程度へ
   引き上げるべきである。
3 減価償却制度の見直し
   建物、機械装置等の減価償却制度は、技術革新等の加速化や欧米の償却制度を参考に
  見直す必要がある。具体的には、耐用年数の短縮、資産区分の簡素化について、先進国
  並みに見直すことを求める。
4 特殊支配同族会社に対する役員給与の損金算入制限
   この課税制度は、新会社法施行に伴う課税逃れの防止策として設けられ、平成19年
  度改正で適用除外基準である基準所得金額が800万円から1,600万円に引き上げ
  られる緩和措置が取られた。

   しかし、その内容は、法人税・所得税という税制の根幹にかかわる重要な問題に抵触
  しており、中小企業経営者の理解を得ることは難しい。さらに要件操作によって、課税
  対象から外れることも可能であり、中小企業間で新たな不公平が生じている。申告手続
  きも複雑となり、企業に負担と混乱をもたらしている。以上のような理由から、この制
  度については廃止を求める。
5 非営利法人課税
   公益法人制度改革は、平成20年度から新制度が施行される。今回の制度改正に伴い
  、一般的な非営利法人制度のほか、社会貢献性を持つ法人に対しては、厳格な基準のも
  と公益法人の認定制度が創設され、税制上の優遇措置が講じられる。税制面でもさまざ
  まな改正が予想されるが、当面、非営利法人課税については、収益事業から生じる利益
  を公益事業に支出する「みなし寄附金」の損金算入限度額(所得金額の20%相当額)の
  大幅な拡大を求める。
6 寄附金
   民間の非営利活動への関心が高まっている。今回の公益法人の制度改革に関連し、新
  たに公益法人に認定された法人等への寄附金について限度額の引き上げ等を求める。
7 役員給与
   最近、会社法改正、企業会計の変更に伴い税制面でも役員給与の取り扱いが大幅に変
  り、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与以外は損金不算入とする改正が行
  われた。しかし、利益連動給与については、同族会社は対象外となっている。経営意欲
  、企業活力を発揮させるため、同族会社についても一定の要件の下で、同様の措置を認
  めるべきである。
8 同族会社の留保金課
   平成19年度改正で中小企業における同族会社の留保金額課税は実質的に撤廃された
  。しかし、課税制度そのものは存続しているので、引き続き廃止を求める。
9 交際費課税制度
   交際費課税については、創設当時(昭和29年)の資本蓄積を図るという政策目標は消
  失している。そこで、現行の損金算入限度額の引き上げ、資本金の規模にもかかわらず
  一定の損金算入措置を認めることを求める。
10 電子申告
   国税庁が平成16年6月からはじめた国税電子申告(e-tax)の利用率が低迷している。
  平成19年度改正では
、個人の電子申告に係る所得税額の特別控除制度(税額控除5,0
  00円)が創設された。さらに一層の利用促進に向けて、地方税の電子申告との一体化、
  法人に対する税額控除の創設、個人の税額控除の増額等を検討すべきである。
11 その他
   租税特別措置については、政策目的を果したものは廃止する一方、中小企業の技術革
  新など経済的活性化に役立つ措置の新設を望む。

   配当に対する二重課税については、現行の配当控除制度では不十分であり、欧州各国
  の制度(インピュテーション方式)を参考に二重課税の排除を求める。
第ニ 個人所得税制について
1 所得税と住民税のあり方
   所得税については、就業形態の多様化など経済社会の変化に伴い非納税者が増えてい
  る。基幹税としての所得税の機能を回復させるため税負担の歪みを直し、広く、薄く負
  担を求めるべきである。また、住民税は応益性の観点から均等額のさらなる引き上げを
  求める。
2 各種控除制度の整理合理化
   所得税および住民税の諸控除については、負担の公平化、税制の簡素化、少子高齢化
  、雇用慣行の変化、ライフスタイルの多様化等、社会構造の変化に対応して、抜本的に
  見直す必要がある。人的控除については累次の改正で複雑化しているため、整理、合理
  化が必要である。将来は、基本的な人的控除に集約し、勤労学生控除等、特別な人的控
  除は縮減または廃止すべきである。

   給与所得控除については、制度本来の趣旨である必要経費の概算控除としては、その
  水準が高すぎるとの指摘もあり、特定支出控除の拡大と合わせて見直す必要がある。
3 少子化対策
   人口減少社会に突入したわが国にとって、少子化対策は国が基本政策として取り組む
  き重要な課題である。少子化対策は、保育所の充実など本来は社会政策による施策の充
  実が重要であるが、一方で税制面での配慮が必要となる。例えば、税率に対する税額控
  除制度を導入し、子供が多くなる程、税負担が軽減される制度の創設を求める。また、
  フランスで実施されているN分N乗方式の導入も積極的に検討すべきである。
4 納税者番号制度
   納税者番号制度は、資産移動の把握あるいは医療、年金等個人情報管理等との関連で
  導入すべきだとの意見がある。導入にあたっては、制度の創設・維持にかかるコスト、
  ブライバシー保護を含めたセキュリティー確保のための措置などを十分に検討すべきで
  ある。
5 金融所得一体課税
   所得税の10種類の所得区分は現在の経済取引に適合しているとはいえない状況にあ
  る。このため、統合・簡素化や金融商品・取引間の損益通算による一体化課税などが望
  ましい。経済活性化の観点からも金融所得の一体課税は実施すべきである。
6 寄附金
   ボランティアの活躍などを契機に民間の非営利活動への関心が高まっている。公益活
  動への支援のために個人の寄附金税制について見直しを求める。
第三 事業承継税制について
1 欧米並みの制度の確立
     わが国の中小企業は地域経済の活性化や雇用にも大きく貢献している。その中小企業
  の相続税の負担が原因で、事業承継ができなくなるとすると、地域経済はもとより日本
  経済にとっては大きな損失である。しかし、事業承継をめぐる税制面の現状は不十分で
  ある。

   欧米諸国の実状をみると、相続税体系は多様であるが、事業承継を相続税に優先させ
  るとの考え方で一致している、具体的には、各種特例や優先措置が整備されている。こ
  れに対しわが国の事業承継について税制面での措置は限定的なものとなっている。こう
  した点を考慮して、経済活性化の観点からも欧米並みの本格的な事業承継税制の確立が
  不可欠である。

   具体的には、相続前後の事業従事を条件として、事業に資する相続については、他の
  一般財産と切り離して課税し、事業用資産、株式については、軽減または控除する欧米
  と同様の制度の創設を求める。また、中小企業の事業承継を円滑に進めるため、後継者
  への事業資産の集中的な承継、手続きの簡素化等の措置が必要である
2 経過措置
   この制度が導入されるまでの経過措置として、取引相場のない株式等についての相続
  税の課税価格の減額措置については、減額率を大幅に引き上げること、さらにこの措置
  は小規模宅地課税価格の特例との限定的な併用制になっているが、両者を切り離して、
  それぞれに個別適用を認めることなどを求める。
3 相続時精算課税制度の拡充
   相続時精算課税制度は、当初のねらい通りに有効活用されている。平成19年度改正
  では年齢制限が60歳に引き下げられたほか、非課税枠が500万円以上乗せられ3,
  000万円とする取引相場のない株式等に係る特例が創設された。この制度は事業承継
  にも役立つため、非課税枠の一層の拡大と年数等適用条件の緩和などが必要である。
第四 消費税制について
1 消費税率引き上げの条件
   消費税は、消費一般に広く公平に負担を求めるものであり、少子・高齢化による財政
  需要の拡大などを考慮すると、近い将来、消費税率を引き上げざるを得ないと認識する
  。ただし、それ以前に行財政改革の徹底、歳出の削減などを行うべきであり、構造改革
  の進展や景気停滞などについても配慮すべきであることはいうまでもない。

   また、消費税を福祉目的税にすることについては、財政の硬直化を招くので、避ける
  べきである。しかし、現在、消費税が年金、介護など社会保障の財源にあてられている
  ので、今後消費税率を上げる際には、段階的に行うとともに、社会保障支出と負担の関
  連を明確化して、国民の理解を得る必要がある。
2 仕入税額控除の適正化
   中小企業が対象となる免税点、簡易課税制度については大幅な是正措置が取られた。
  しかし、大企業が恩恵を受ける課税売上割合が95%以上の場合、仕入れ額の全額控除
  が認められている。事務処理が確立されている大企業については、この措置を不適用と
  すべきである。
3 滞納防止
   消費税は本来預り金的性格を持つ税金であるため、滞納防止策として中間申告や
  e-taxの普及等、制度、執行面で一層充実した対策が望まれる。
第五 地方税制の見直しについて
1 固定資産税の軽減
   固定資産税については、商業地を中心に実効税率が上昇を続け、都市部において重税
  感が高まっている。そこで、都市計画税とあわせて制度の見直しと負担軽減を求める。

   宅地と事業用地については、資産の収益力に着目した収益還元価格で評価する方式に
  改めるように求める。また、事業用地については、居住用宅地に準じた負担軽減措置を
  設けるべきである。居住用家屋については、再建築価格方式でなく、家屋の経過年数に
  応じた評価方法に改めるべきである。

   土地の評価体制については、国土交通省、総務省、国税庁が各省庁の目的に応じた評
  価を行っているが、行政の効率化の観点から評価体制の一元化を行うべきである。
2 事業所税の廃止
   事業所税は固定資産税との二重課税的な性格を持っている。また、最近、市町村合併
  の推進で課税対象が拡大している。このため、速やかに廃止すべきである。
3 申告納税の合理化
   行財政改革、納税者利便性等の観点から国税と課税対象を同じくする法人事業税、法
  人・個人の道府県民税、市町村民税について、地方消費税の執行をモデルとして、納税
  手続きの一層の合理化を図る必要がある。
4 超過課税・法定外目的税
     市町村民税の超過課税は主として法人を対象に行っており、その課税目的は必ずしも
  、明らかでない。課税の公平原則にも反するもので、速やかに廃止すべきである。

   また、法定外目的税については、環境対策から導入される事例が多いが、独自課税の
  実施にあたっては、税の公平、中立の観点から法人企業に安易な課税は避けるべきであ
  る。
第六 環境税制について
    環境問題については、現在さまざまな議論が、国際機関、各国政府、NGO等で展
   開されている、税制上の対応としては、環境税導入に向けた議論とエネルギー関係諸
   税である道路特定財源の見直しなどが検討されているが、政府部内で結論は出ていな
   い。今後は税財源や使途、国・地方の役割等、幅広い観点から検討し、国民的な合意
   形成に努めるべきである。
【付記=個別事項
 別に取りまとめた個別事項についても、速やかに所要の改正を行うようとくに付記する。